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パブリケーション / インテグラート・インサイト・コラム
事業ポートフォリオマネジメントに関するトピック
Vol.121(2016.5.26)
「『逃げの一手』を打てますか?」
不確実な事業環境でのビジネスプランニング手法「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning、以下DDP)」の開発者であるペンシルバニア大学ウォートン・スクールのイアン・マクミラン教授とコロンビアビジネススクールのリタ・マグラス教授と、今月打ち合わせをしてきました。

インテグラートは、このDDPをソフトウエアやコンサルティング・研修に活用していますが、あらためてご説明しますと、DDPの主な特徴は、以下の2点です。

(1)事業は、仮説の割合が高いと失敗しやすいので、仮説を知識に変えていく必要がある
(2)得られた知識(これを両教授は、Discoveryと呼んでいます)を活用して、新たな戦略オプション(事業の修正)を実行する

仮説とは、例えば下記のようなものです。
a. この機能が顧客に好評だったら
b. 投資した技術が主流になれば
c. 想定するコストで販売できたら
d. 資源価格が上昇し続けたら

事業計画は、このような「たら・れば」(仮説)と、今までの経験等による知識に基づいていますが、「たら・れば」(仮説)の割合が高く、知識の割合が低いと、失敗しやすい、とDDPでは説明されています。

仮説に対して、知識とは、調査や実験、あるいは事業を行った経験によって得られる下記のようなものです。
a’. この機能は顧客に好評である
b’. 投資した技術が主流になる
c’. 想定するコストで販売できる
d’. 資源価格は上昇し続けない

DDPでは、大きな失敗を防ぎ、成功を達成するためには、計画段階では仮説であったものを、早く・安く、知識に変えていくことが肝心だとしています。

さて、仮説を知識に変えていくための「知識の得やすさ」と、事業を修正する「戦略オプションの実行」に注目すると、事業のポートフォリオを以下の4種類に分類することができます。
@知識を得やすく、戦略オプションを実行しやすい → 経営
A知識は得やすいが、戦略オプションを実行しにくい → 他力本願
B知識を得にくく、戦略オプションを実行しにくい → 市場取引
C知識を得にくく、戦略オプションを実行しやすい(ただし、知識を得にくいため、戦略オプションを見出せない) → 塩漬け・放任

Aの典型例は、大型プロジェクトやベンチャー企業へのマイノリティ出資です。それなりの金額の投資をするので、知識や経験は得られます。しかし、事業を修正する指揮権がありません。追い風に乗ることが他力本願の妙味ですが、危機的な状況に際しては、お手上げ状態になってしまうことが弱点です。

Bの典型例は、証券投資や、資源・食料等のトレーディングです。原則として公開情報しか得られず、事業への直接的な関与もありません。しかし、売買が容易であることが、Bの特徴です。この点が、Aと対照的です。

Cの典型例は、本社とのコミュニケーションの悪い子会社・海外事業、買収後の管理がうまく行っていないM&A案件などです。事業を左右する重要な情報が共有されていないので、塩漬け・放任状態です。Cは、企業の成長を追求するうえでは、かなりまずい状況ですが、大きな企業グループでは、少なからず存在するようです。

いずれの場合も、当初の仮説が間違っていれば失敗してしまいます。従って、仮説を知識に変えていく目的を持った調査や実験が重要なのですが、今回のマクミラン教授との打ち合わせで、教授は次のように私に話しました。

「誰もが、仮説が正しいことを証明しようと努力する。だから時間がかかり、損失が大きくなる。仮説を否定する情報を探すほうが、早いのだ。ダメなことが早くわかれば、大金を使わなくて済むだろう?」

痛いところを突かれました。事業を成功させるために、仮説が正しいことを期待し、あの手この手を尽くそうとしてしまいます。まさに私もインテグラートでその通りに努力しているだけに、この言葉には考えさせられました。どのような事実が、仮説を否定し、事業を破綻させるのか、あらためて考えなければ、と痛感しました。

仮説を否定する事実が明らかになった場合には、即座に「逃げの一手」を打つべきなのですが、それが実行しにくいのが、先ほど分類した@〜CのうちのAの他力本願です。例えば、最近話題になった、大手総合商社の資源投資に関する巨額の減損処理は、資源価格は上昇し続けない、ということが明確になった後、即座に「逃げの一手」を打てなかったことが、傷口を深くしました。マイノリティ出資のために、事業そのものの修正をリードできないことや、出資先との契約条件によって売却したくても容易に売却できない契約になっている場合、あるいは、リーダーシップが不明確なジョイントベンチャーのように、戦略オプションを実行しにくいことが、背景にあります。

DDPに沿って考えると、「逃げの一手」に早く気付くこと、更には、その戦略オプションを実行できる状況に事業を位置付けておくことが重要です。

仮説の外れに早く気付くための「知識の得やすさ」と、「戦略オプションの実行」に基づいて事業を分類することを、事業ポートフォリオの新たな分析手法としてお勧めいたします。

(小川 康)
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